淑女の皆様ごきげんよう。ロマンスヒルズの紗羅でございます。

今回は、ヒットするといわれる物語の構造、プロットについて神話学的な観点から考えをまとめてみようと思います。主に物語を紡ぐ作家の方にむけたお話なので、純粋に作品を楽しみたい読者の方は読まなくても全く問題なしです。



1.英雄神話と物語の構造。神話のプロットについて

ライトノベル、ティーンズラブ、少女小説、またはミステリーやSF、純文学。
それぞれジャンルは違うため、ジャンル別の読者が好きな傾向も異なります。
作家は、自分が属しているジャンルに即した物語のプロットを日々考えていることでしょう。
どんな作品が読者にウケるのか。ヒットの法則とは何か。
しかし、そういったジャンルを超えたところにある、共通のプロットというかテンプレートというか、必ず共感を与える物語というものが存在します。

神話学者のジョーゼフ・キャンベルという人がいます。
日本語でも出版されているので、ご興味のある方は是非ご一読いただきたいのですが、彼の著書は神話学の教科書のようなものです。
ハリウッドのヒットメーカー、ジョージ・ルーカスをはじめとし、映画の脚本などを手がけている方は必ず読んだことがあるとも言われています。
→ジョーゼフ・キャンベルの著書一覧はこちら


さて。どうして突然神話学なのか。

実は神話は、人類共通、普遍的な物語の集大成でございます。

神話学とは、人類の進化と共に、何千年も前から人々に語り継がれてきた物語の共通点などを分析し、研究する学問でして、日本、インド、ギリシャ・ローマ、中南米、東南アジア、アメリカなどなど世界中の神話や伝承が対象になります。神様の名前を覚えばいいだけの学問ではございません。
不思議なものでして、住む土地や文化、文明は異なっていても、神話として語り継がれているストーリーには、驚くほどの共通点が多いのです。

小難しいことはおいとくとして、ハリウッド映画のプロットには、必ずといっていいほどこの神話の構造が入り込んでいます。身近なところだと、日本の少年漫画。アニメなど。もちろん少女漫画やライトノベルなど。もちろんロマンス小説やティーンズラブ小説などの恋愛小説にもあります。

キャンベルの理論については、多くの方々が読みやすい記事にしておられますし、実際ご自分で彼の著書を読まれても良いとおもうのでここでまとめることはしません。
学生時代にキャンベル以外にも、ツィンマーやプロップ、エリアーデやユング、レヴィ=ストロースなど、神話学や文化人類学、心理学に関連する資料を読み漁った結果、趣味で何百冊も小説を読んで得たまとめが以下になります。「キャンベルはそんなこと言ってないぞ」とかいう学術的な議論をするためのお話ではございませんのでそういったツッコミは何卒ご容赦ください(汗)



主人公であるヒーローが紡ぐ物語の一例です。

1)物語の基本になる部分

・ある辺境の村でヒーローは育つ
・ヒーローの出自は不明(父が不明な場合が多い)
・村が襲われたり、何かを探すために、ヒーローは生まれた場所を出て旅に出る
・その道中で、敵を倒しながらスキルアップする
・洞窟やダンジョン(子宮の暗喩)で敵(自分自身)と戦い勝利する
・ヒーローの前には、世界を滅ぼす巨大な敵が立ちはだかる
・敵の正体は、自分の父だった
・ヒーローは敵を倒し、世界を救う
・英雄となった彼は村に戻り歓迎される


2)これに、恋愛要素が追加されると……

・ヒーローとヒロインは出会い、恋に落ちる
・ヒロインの出自も不明な場合が多い
・実はヒロインは、高貴な血筋、聖なる力を持っている(気づいていない)
・出会った二人が結ばれるには大きな障害がある
・正反対の二人はいがみ合い、ぶつかり合うこともある
・ヒロインは敵にさらわれ、絶体絶命の危機に陥る
・ヒーローは敵を倒し、ヒロインを救う
・ヒーローはヒロインを得ることで聖性を得る
・二人は結ばれ、永遠の幸せを得る
・子供が生まれる。その子供は世界を救う救世主となる


3)友情要素が追加されると……

・ヒーローは道中で仲間を見つけ、仲間と共に敵を倒す旅をする
・仲たがいしつつも切磋琢磨し人として成長する
・親友が盾になり命を失う
・親友の犠牲が糧となり、ヒーローは敵を倒す


おや、こ、この設定はもしや……?!
そうです。あなたの好きな映画やアニメやゲーム、小説や漫画。どれにも共通して言えることではないでしょうか。王道設定と言われている例のアレです。

基本の部分はスターウォーズとかメタルギアソリッドとかドラクエとかそりゃあもう数え切れないほどの物語がありますね。
恋愛要素は、それこそロマンス小説のテンプレートそのまんまですね。英雄が冒険の過程でヒロインをゲットするお話は、ラノベとかもこのパターンです。
友情が追加されると、これはもうジャンプのテンプレート。ジョジョ第三部とかですね。花京院よ永遠なれ!です。

あれも、これも、それも。どれも根っこの部分が同じだったことに気づきます。

このテンプレートは、実は世界中の神話に共通している、英雄の成長神話でして。
多くのエンターテイメント作品のストーリーの根幹とされております。

英雄は旅に出て、成長し、敵を倒し、帰還する。
物語の初めと最後、同じ場所にいるけれど、同じ人間ではない。
彼は既に成長し、大人となっている。
螺旋のように時間は未来へと進む。英雄が最後に立つ場所は、はじめと同じ場所に見えて同じ場所ではない。時と共に変化した場所である。という。


英雄の成長神話の基本は、子供が儀式を通じて大人になること。父親・母親的な存在との対峙を経て、呪縛から開放され、真に大人になること。という人間の成長の通過儀礼を表しています。

物語の中の敵は、世界を滅ぼす大きな悪だったりしますが、本質は

「主人公が乗り越えなければならない、父親的な要素を持った魔物」
「主人公を捕らえて離さない、成長を阻害する母親的な要素を持った魔物」

となります。
ちなみにダークファンタジー『ベルセルク』の元ネタといわれる和田慎二の名作『ピグマリオ』は、神話世界を元にしたお話ですが、この英雄成長物語をそのまんまなぞっています。
ヒーローであるクルトの敵となるのは、母親的な存在である魔物のメデューサ。
脇役の青年、メデューサの兄であるアスナスは、魔物である父親を超えようと父と対峙します。
絶版ですが、とにかく名作なのでご一読願いたい。
アスナス様の素晴らしさについて萌えを語りたい。語りあいたい。


新人作家の方が、こういった神話的な背景を知らずに、一生懸命考えたお話が、上記のプロットのまんまだったと気づいたら、もしかしたらショックを受けるかもしれません。
また、純粋に作品を楽しんでいた読者の方々は、自分の好きな作品は上記のプロットをなぞっただけだったのか!ともしかしたら悲しい想いをするかもしれません。


でも、そんなことはないのです。

大切なことなのでもう一度言いますが、このプロットは、人類普遍、生まれた国も人種も関わらず、人類が共通に持っているイメージなのです。



人間には、表むきの心理だけではなく「無意識」の領域があるといわれています。
このあたりはユングなどの心理学者が提唱している部分にもなりますので興味があれば読んでいただければと思いますが、無意識とは、人類が数万年かけて進化し、現在に至るまでの間に身体に蓄積された記憶。本能的なものではないか、と言われています。ざっくり言うとですよ。ざっくりと。

人は生まれ、成長し、大人になる。別の性と出会い、交わり、子供が生まれ、種を次世代に繋いでいく。気が遠くなるほどの時間の流れの中で、多くの命が生まれては消えていく。
でもその中で、人はどう成長していったのか。記憶は確かに刻まれている。と。
遺伝子レベルで刻まれた過去の人々の記憶が、今の私たちにも受け継がれているというのです。
英雄神話とは、個人が成長し大人になることをなぞり、体現したものです。
昔の人々は、子供が大人になるための通過儀礼を行い、「大人になること」を重要視していました。
そのために語り継がれてきたのがこの英雄神話です。

作家は、このような英雄神話をなぞる展開のお話を書くとスカッとします。
読者は、このようなお話を読み終えると、とてもスカッとして、気持ちよくなります。

これはあたりまえのことです。
神話として語り継がれてきた普遍的なストーリーというのは、人間であれば、誰もが本能的に知っているもの。だから、こういった神話のプロットが、物語の基本になるのはごく当たり前。読みたい。書きたい。と思うのも本能的なものなのでございます。

思春期に厨二病になって神話を読みふけったり黒歴史的なポエムを作ったりイラスト描いたり特定のアニメやゲームに心酔したのは間違っておりません。
英雄成長物語に触れることで大人への成長を追体験しているのです。
むしろそういう経験が一切ない思春期のほうが、精神的に危ういかもです。


ぶっちゃけ、本能が求めてるんですよ。主人公の成長物語ってやつを。

遺伝子レベルで。



2.最近のライトノベルの傾向

こういうことを書くと、最近はこういう成長プロットがすべての作品に当てはまらないんじゃないか?
と思う方が出てくるんじゃないかなあ、と思います。
男性向けのライトノベルを例にとると、特に主人公の成長が必要とされない話もあります。よくあるタイプのものは

・頑張るみんなを見ながら「やれやれ」と冷静な主人公のお話。
・はじめから最強のパワーを持った主人公がオラオラ無双するお話。
・現代で得た知識をもったまま異世界に転送され、その知識を使って主人公が楽しくのしあがるお話。
・ヒーローがハーレム状態で様々な女の子と仲良くなるお話。

など。全部まとめて異世界転生チートハーレム系といわれたりする例のアレです。

主人公が、頑張って敵を倒してある程度のレベルまで達する部分をすっとばしているお話


女性向けの小説にも似たような流れはありますが、こういう作品に人気があつまるということは、英雄の成長神話のテンプレートに飽きてきた日本人というか、読者というのが垣間見れて、いろいろ考えさせられます。

日本人は、男性も女性も、やっぱり疲れているのかもしれません。
頑張らなくても楽に生きて行ければいい。努力したり辛い部分や面倒な部分はすっとばしたい。そういう部分を読むとストレスになるから、最強の主人公が無双するところだけを見てスカッとしたい。
という願望が強いのかなあ、と。

でも、主人公たちの成長がない物語は、すぐに飽きられます。

序盤のところでは、最強ヒーローは面白いかもしれません。さくっと無双する主人公が見たいかもしれません。でも、もし物語としてそこにストーリーがついてくるなら、かならずどこかに変化が必要になってきます。同じような敵を倒しているだけでは面白くないからです。

なので、最強ヒーローの設定から始めた物語は、どんどん敵を強くしていく必要があります。
漫画など、長期連載になればなるほど、敵も成長しヒーローも成長するので、そりゃあ覇王色の覇気も必要です。

主人公に感情移入すると、やはりそこに成長を求めてしまうのが本能だからです。



3.ティーンズラブ小説とヒロインの成長


と、ここまで書いてアレですが。
まあ、神話好きな人や、ラノベの構造とか、ハリウッドの脚本とか勉強したことがある人にはなじみのある話だったと思います。ここであえて書く内容でもなかったかもしれません。すみません。

ただ、本コラムを読んでいる方は、女性向けの小説を書かれている作家の方が多いと思いますので、作家の視点から本件を考えてみようと思います。

ティーンズラブ小説ではヒロインの成長がそこまで求められない。
という点は前回のコラムで書きました。
主人公の成長物語が、物語を紡ぐ人の脳内に本能的に浮かび上がるものだとしたら、そういう要素を避けた作品が消費者から求められている場合、あえて書かないようにしなければならないということ?

実際、「ヒロインが成長する、大人の女性のためのお話が書きたい。女性が冒険するお話が書きたいのに、ティーンズラブ小説ではそういう話はあまり求められていないと分かりショックでした」という作家の方の声もいただきました。

ティーンズラブ小説に携わっている作家の方々にとっての悩みどころ。
英雄神話をなぞるような王道で、ヒロインが成長するお話が書きたい場合。
女性向けの官能小説の要素が強い作品が多く、冒険よりも癒しが求められる中、どこまで自分の書きたいものをかけるか。認められるか。

結論を言うと、あまり気にしないでください。
「人間の成長物語が書きたいという気持ちは本能」です。
自分が書きたいと思うものを、本能の赴くまま、萌え昂ぶって書いてください。
でないと、面白い作品は生まれないです。
そのジャンルに即した形で、主人公を成長させればよいだけです。


ティーンズラブ小説のヒロインは、たしかに受身かもしれませんが、受身過ぎて、本当に何も考えていないおばかちゃんだと、かえって読者は不快感を表します。
欠点がなく完璧なヒロインというのも、ときには読者をイラッとさせます。完璧すぎると感情移入のスキがないからです。
このさじ加減が難しいのですが、これはやはり、「成長している様子が全くない」主人公は、本能的に読者から拒否されているのではないか。とも思うのです。


ティーンズラブ小説には、主人公の成長が「そこまで」必要とされないだけです。
「全く必要とされない」とは言っておりません。
ティーンズラブ小説は、ヒーローがヒロインをエスコートすることが前提のロマンスなので、
ヒロインのほうがガンガンいこうぜ!と大活躍をしなくても良いというだけです。

もし、どうしても受身ヒロインは苦手だと悩まれているなら。
物語のはじめと最後を比べると、ヒロインが精神的に確実に大人として成長している。という要素を入れるだけで、ヒロインに感情移入しやすいので、多くの読者に受け入れられるかもしれません。

読者の方も人間なので、「成長物語」を受け入れる土壌はあります。
ただそのときの気分によって、ガンガン成長する主人公よりも、まったりと癒されたいとか、愛されたい、官能を楽しみたいというほうにベクトルが向くだけです。
そういう気持ちのときに読むのが、ティーンズラブ小説だということです。



癒されたい女性のために、愛されたいと願う女性のために、官能的な物語を紡ぐ。
プロットには神話の構造を使いつつも、女性を幸せにする物語を生み出すことができるなら。
これはこれで、素晴らしいことだと思います。

最近は、ネット小説の台頭などで、商業のテンプレートにこだわらない新しいタイプのお話もどんどん書籍化されておりますし、読者の好みの幅も変わってきています。
紙媒体を購入する年齢層は高めですが、ネット小説を読む層の年齢層は低めです。
電子書籍市場もどんどん広がっています。
数年後の女性向け小説、ティーンズラブ小説の市場は大きく変わっているかもしれません。目先のことだけではなく、未来を見据えることも必要になってくるかもです。

自分の中にある萌えを正直に形にすること。
それがお仕事となるとしたら、それほど幸せなことはありません。
どうか、楽しく幸せに、素敵な作品を生み出してくださいませ。



神話学という視点からのプロットのお話。
こういうネタふられたらご飯三杯いけるので
萌え昂りすぎて、あっちゃこっちゃ話が飛んでしまって申し訳ないですが。
もし、本コラムが、物語を紡ぐ皆様にとって、なにかしらの糧になりましたら幸いでございます。





あとこれは超蛇足ですが。



女性は、男性よりも成長の過程にある儀式が明確だといわれています。
女性は、初潮によって体が確実に大人になり、結婚、妊娠、出産、母になる。身体の成長が大人への通過儀礼となる。自分がわざわざ意識していなくても、身体が大人になっていくので、精神的にも男性より早く成熟し、自らが大人であることを否応なしに認識するという。

と考えますと、これだけ書いてきたのにアレですが、
英雄の成長神話のヒーローは、男性が中心のお話だということが分かると思います。
もしかしたら、女性には女性のための神話があるのかもしれません……
というお話はまた別の機会にするとして(できるのか)


ロマンス脳のロマンスバカのコラムを、いつもお読みいただきありがとうございます。 

今後ともよろしくお願い申し上げます。